自殺願望を持つ少女が自殺をやめたくなるような童話
「ルーサーは地面の中でずっと考えていました」
ルーサーは地面の中でずっと考えていました。あ、ルーサーというのはジュウシチネンゼミの幼虫です。
ぼくは何のために生きているのだろう。ぼくは本当に生きているのだろうか。地面の中をはいずり回って毎日が同じことの繰り返し。
それはミミズの一言がきっかけでした。
「お前は十七年も生きられるんだ。いいよなあ」
「この退屈な土の中の世界でそんなに長く? それでも生きているっていえるの?」
「それはお前次第だな。でもお前は十七年後に必ず死ぬって決まってるんだ」
なんだ。だったら別にいいや。なにもかもどうでもいいや。
たくさんいた仲間たちは十七年目にみんなどこかに行ってしまい、ルーサーは独りぼっちになりました。それでもルーサーは独り、足の先をかじっていました。
そんなルーサーにも変化が訪れました。ある日、今まで関心のなかった上の世界をどうしても見たくなったのです。ルーサーは力を振り絞って地面を抜け出し、太い木の幹を上り始めました。闇の中を登り続けて疲れ果て、ルーサーは眠りにつきました。
目覚めたとき、外の世界は今まで見たことがないものになっていました。まぶしい光にあふれていました。その光に応えるように、自然に体じゅうから声があふれ出ました。
そうか。これがぼくが本当にしたいことだったんだ。ルーサーはその日、一日中歌い続けました。赤い目を光らせて声の限りに歌い続けました。夕闇がすっかりあたりを塗りつぶすころ、ルーサーは疲れ果てて眠りにつきました。
よおし、また明日一日、ずっと歌おう。
次の朝。声を出そうとしても出ません。体もうまく動きません。地面の中にいすぎて、外はすっかり寒くなっていました。ルーサーが出てきたときにはもう冬が来ていたのです。
ああ、ぼくはどうしてもっと早く気づかなかったんだろう。目が覚めたら、また新しい世界が開けるのかな。
ルーサーは、ジジジッと声を上げましたが、それはもう歌とは呼べないものでした。
(798字/一・〇版)
-----------------------------
【番組紹介】ドキュメント“考える”「ベストセラー作家 石田衣良の場合」
(12月25日(火) 23:00~23:30 NHK総合 )
「直木賞作家・石田衣良氏に密着し、作品が生み出されるまでの一部始終を見詰める。石田氏は「自殺願望を持つ少女が自殺をやめたくなるような童話」を48時間以内に書き上げるという制約の中で仕事に取り組む。石田氏は頭に思い浮かぶプロットを1枚の紙に図式化するという独特の手法でテーマを熟成させていく。こうした作業の中で、もう1人の自分がストーリーを紡ぎ上げていくのだという。石田氏の創作の神髄に迫る。 」
http://tinyurl.com/yspyoe
上記番組で石田衣良氏に出された課題「自殺願望を持つ少女が自殺をやめたくなるような童話」を、24時間以内、800字以内という制限を加えてやってみました。
ちなみに、番組内では「ガチョウ」「光学」「草書」の3つの言葉を使う三題噺、という条件が加わっていました。
| 固定リンク
「創作掌編」カテゴリの記事
- 吸血鬼・九掌篇(7)「世界の屋根にて」(期間限定公開)(2008.04.22)
- 【三百字小説】スティックス(2008.03.28)
- 吸血鬼・九掌篇(6)「老いた獅子」(期間限定公開)(2008.03.16)
- 銀ブラしてみた(2008.02.20)
- メトロ芸術文化展(2008.01.25)
「文化・芸術」カテゴリの記事
- 南蛮の夢、紅毛のまぼろし(2008.04.21)
- 【特集と連載】検索のツボ、広辞苑の誤り(2008.02.23)
- 銀ブラしてみた(2008.02.20)
- 吸血鬼・九掌篇(4)「血缶販売機」(期間限定公開)(2008.02.14)
- 吸血鬼・九掌篇(3)「南国吸血譚」(期間限定公開)(2008.01.29)
「映画・テレビ」カテゴリの記事
- 自殺願望を持つ少女が自殺をやめたくなるような童話(2007.12.26)
- DVDが出ました(2006.12.25)
- Deep Blue(『ディープ・ブルー』)の印象(ねたばれあり)(2006.05.25)
トラックバック
この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/92052/17481759
この記事へのトラックバック一覧です: 自殺願望を持つ少女が自殺をやめたくなるような童話:

コメント